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 「おい、新人! 大丈夫か! おい!」

​ 大音量の声で起こされる。

 ただでさえ大量の記憶を読んで頭が痛いというのに、"先輩"であるこの男の大声が、やかましく耳に響く。

​ 「うるさい……。耳元で叫ぶな」

 思わず、自分が憲兵を演じていることを忘れ、素で話してしまった。

 まあそろそろ、この男には隠す必要もないだろう。

​ そろそろ、本業に戻ることにする。

 

 「な、てめぇ。先輩が心配してるのになんつう態度だ! 敬語はどうした敬……」

​ 憲兵は俺を指差し、説教をたれる。

 しかし、途中でサーッと顔の血の気を引かせ、指と声を震わせる。

 ​

 「あ、あな、貴方は。れ、レ。レキ・エーテレイン代表!?」

 流石は星団オタクと名高い“先輩”だ。

 五代表でもない俺のことまで把握しているらしい。

 ネタバラシをする手間が省けた。

 総代表から受けた命は、鉱石の魔導師を見つけ出して討伐すること。そのために、鉱石の魔導師と思われる情報が出たこの地域に来た。

 そして技術班に頼んで身分を捏造し、動きやすいであろう憲兵になりすました。

 だが、色々と計画が変わった。

 鉱石の魔導師が生きている。それはリトスの調査で分かっていたことだ。

 その正体は氷霧の魔導師 ツララ・アスティリル。

 その若さにも驚いたが、まさか、冤罪だとは。

 リトスを滅ぼしたのは、鉱石の魔導師ではない。そうなると、誰が、何がリトスを滅ぼしたのか。それを知る必要がある。

​_____上には、どう報告するべきか。

「本当に、無礼を申し訳、ございません。この命を持って、お詫び、いたします……」

​ 俺が思考を巡らせている間、先輩憲兵はきれいな土下座をしながらブツブツと、謝罪を唱えていた。一般憲兵と、星団代表では確かに階級は大きく違うが、そこまでかしこまることじゃない。

 この憲兵にとっては階級よりも、"憧れの星団の人"にタテをついていたということが後悔となっているんだろう。だが、これが使える。

 「先輩にお願いがあるんですよ~」

 俺はまた憲兵を演じ始める。これは先輩憲兵への圧だ。

 「ひい。は、はい、なん、なりと。あの、そのセンパイというの、やめてください」

​ 「さっきのラゴ。先輩が倒したことにしてくれません?」

 

 「は、はひ? え?」

 あまりにも圧をかけすぎた成果、まともな受け答えが返ってこない。

​ 流石にやりすぎたと思い、普段の話し方で説明した。

 俺は今、総代表からの命を受けている。詳しいことは"特殊任務"だから言えないが、俺がここにいたことが外部に漏れれば、星団にとって大きな痛手になる。それを防ぐために、結晶をまとった怪物のラゴが出て、それを先輩が討伐したと報告してほしい。

 これは、"星団のため"なんだ。協力してくれと。

 嘘をつく時は、真実を混ぜるとバレにくいと教わったことがある。

 実際にやってみると、すべて妄言で固めるよりも、スラスラと言葉が出てくる。これは悪いことを教わった。

 

 「特殊任務……。星団のため……」

 憲兵は目を輝かせ復唱をしたのち、キレのある敬礼をした。どうやら、交渉は成立らしい。

 

 「で、でもいいんですか。こんな功績を報告したら、俺、星団からスカウトされるかもしれないじゃないですか!」

 こいつはなかなかクズなのかもしれない。どうやら自らの力で星団に入りたいという断固とした意志などは微塵もないようだ。

 それを命令している俺も、大概であることは自覚している。だが、使えるものは使う。俺は別に英雄でも何でもない。やるべきことのために動いているだけだ。

 こいつに変な正義感がなくて、こちらとしては助かった。

 「ああ、そうだな。紫電か稲妻か、どちらでも好きな方をつけてもらうといい」

​ 「あ、そういえば。エーテレイン代表は心が読めるんでしたっけ。もう、俺の夢の固有名を暴露しないでくださいよ……それも人前で」

​ さすが休憩室に大量の星団情報を隠し持って、読み更けているだけのことはある。​有名どころの能力は、把握しているらしい。説明する手間が省けて助かった。

 もう夢ではなくなるかもしれないぞとそそのかすと、浮かれ顔で天を仰ぎはじめた。

 こいつは扱いやすそうだと思った矢先。真剣な眼差しで、再び話しかけられる。

 「エーテレイン代表。命令は必ず守ります。ただ、何もなしには信頼に値しないでしょう。俺からも一つ、お願いがあります。」

 「何だ」

 この男。ちょろいかと思ったが、そういう所はしっかりとしている。​

 星団オタクが出てこなければ、わりと仕事はできる男だった。

 何を要求されるのか。答え次第では、と少し身構える。

​ 「あとでサインください。できれば五代表のサインも」

 鼻息をふかした威厳のない顔をみて、協力者の人選を間違えたかもしれないと後悔した。

 俺により討伐されたラゴは、徐々に形をなくし、風化していく。

 ラゴの身体に刺さった鉱石は、消えることはなかった。

 

 それもそうだ。この鉱石はこのラゴのものではなく、あの魔導師が生み出したもの。

 そこまで考えが及ばないのも無理はないが、詰めが甘い。

 俺のような星団の人間が見れば、一発でバレるだろう。

​ 残っていた鉱石を砕いて回収し、鉱石の魔導師の痕跡を隠蔽する。

 「「ありがとう」」

​ 残り滓に触れた時、かすかに2つの声が、そう聞こえた気がした。

 「それは、あの女に言う台詞だろ」

 

 それに対する返事は聞こえなかった。

 ついでに、​伝えておくか。と考えながら、人気のない夜道を歩いて行く。

 思えば、リトスの事件には不審な点がいくつかあった。

 8年前に派遣された調査隊の報告書と、俺が実際にリトスで見たものに差異があったこと。帝国が一度も再調査を命じなかったこと。そして、総代表の言葉。

 「この件は、貴方が信頼できる者にしか共有してはいけないわ。たとえ、それが仲間であっても」

___つまりは、組織も信頼できないというわけか。

 なかなかに面倒事を押し付けられた気がする。

 解決までどれほどの時間がかかるか、それを考えると悠長にはしていられない。

 手っ取り早いのは、あいつの記憶を読むことだ。

​ 目的地は潔白の大罪人、鉱石の魔導師。

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